1, 現代文(小説)
【出典】
『孤高の人』 一九六九年 新潮社刊
昭和初期、単独行の加藤文太郎として名を知られた実在の社会人登山家をモデルにした山岳小説である。
新田次郎 (一九一二〜一九八〇)長野県上諏訪生れ。無線電信講習所(現在の電気通信大学)を卒業後、中央気象台に就職し、富士山測候所勤務等を経験する。一九五六年『強力伝』で直木賞を受賞。『縦走路』『孤高の人』『八甲田山死の彷徨』など山岳小説の分野を拓く。次いで歴史小説にも力を注ぎ、一九七四年『武田信玄』等で吉川英治文学賞を受ける。一九八〇年急逝。実際の出来事を下敷きに、我欲・偏執等人間の本質を深く掘り下げたドラマチックな作風で時代を超えて読み継がれている。
問1
解答:解説
漢字の読み方の1問題。どれも基本的な熟語なので知っていてほしい。その中では、(ア)の「先陣」は日常生活ではなじみが少ないかもしれないが、「陣」という言葉を知っていれば答えられるはずだ。(ウ)の「眺めて」という訓読みの語についても、前後の文脈からその意味をよく考えてから答えを選ぼう
問2
解答:解説
その理由は 直前の一文に書かれている。店主の読んでいる本が何かを知り、「この本を持っている者は、まず、日本における登山の先陣を担っている人であると考えてさしつかえない」という上司の登山家の言葉を思い出し、この店主に関心を持ったからである。そう考えれば正解がCであることがわかるはずだ。@は、ここまでに全く書かれていないことなので間違い。Aは、店主が本を読むことに夢中になっていることに感銘を受けているわけではないので間違い。Bは、「店主の顔を改めて見直した」という傍線部の表現から選んでしまいそうだが、加藤が店主をのぞき込んだのは、たった四〇〇部しかない藤沢久三を読んでいたからであり、その人が日本の登山の先陣を切っている人に違いないと思ったからであって、その人物が先輩の紹介してくれた人物と同一人物かどうかを確認しようとしたわけではないので、間違い。Dは、「ぜひ自分にも読ませてもらえるように頼みたい」というようなことは書かれていないので間違い。
問3
解答:解説
大野が過当に対して以前から敬意を抱いていたことは、「あなたこそ、関西の山岳会を代表する登山家となる人だと聞きました」という言葉に表れている。それに対する加藤の反応が「加藤はそれに何ともこたえず」とあり、そして傍線部へと続く。それは、Aのように「人間性への不信感」というものではないので間違い。Bの「誇らしげな気持ち」はどこからも読み取れないので間違いとする。Cの「憤りを感じている」はこの場の加藤の気持ちとはそぐわないので間違い。Dの「本人は素人として扱ってもらうつもりが」という部分がどこにも書かれていないので間違い。そうすると、素直に「騒がれることに戸惑いを感じている」と読み取るのがよい。@が正解である。
問4
解答:解説
最初の対応は素っ気ない態度だったが、加藤の登山経験を聞いているうちに彼に関心を持つようになっていったのだから、正解はBである。@の「無礼な態度をとるうっとうしい客」だというのは文中から読み取れないので間違い。Aの「最初は店に来た客として愛想よく接していた」が間違い。Cは、最初「加藤の不審な態度に警戒心を募らせていた」が間違いだし、「来店の目的がわかり」親身に接するようになったというのも書かれている内容と違うので間違い。Dは、「最初は同じ登山仲間である加藤のよそよそしい態度に物足りなさを感じていた」という部分で、志田は加藤の態度に物足りなさを感じていたわけではないので間違い。
2, 現代文(評論文)
【出典】
池内了『ヤバンな科学』 二〇〇四年 晶文社刊行 より
池内了 一九四四年生まれ。宇宙物理学者。現在は、科学・技術・社会論に傾注。新しい博物学を提唱。科学エッセイや科学時事を新聞や雑誌に執筆している。科学についてのわかりやすい著書が多数ある。
問1
解答:解説
漢字の問題。例年の書き取りの問題に比べるとやや難しいかもしれない。(ア)「キタえる」は知らないと五つ並べられてもなかなか正解にいたらないかもしれない。「サマタげる」についても同様のことが言える。常用漢字についてはできるだけ日頃からその熟語を確認しておいた方がよいだろう。(イ)・(ウ)・(エ)の音読みの熟語については同音語に注意して、前後の文をしっかり読んで判断することが大切である。
問2
解答:解説
ここで話題になっているのが、この段落の冒頭で述べられていた「人工化学物質」であることはすぐにわかると思うが、「環境問題あるいは生態系というリトマス試験紙を挟むと、たちまち異なった色が現れてくる」というのが、直前の文の「バラ色の利点」と「異なった色」であることがわかれば、それが「有害なものだ」ということのたとえであることがわかると思われる。そう考えると、正解は@であることも理解できるはずだ。Aは、少し前の文に、「人工化学物質」が「自然の浄化力では簡単に処理できず」とか「耐久性に優れており」と書かれているので、間違いだとわかる。Bは、「リトマス試験紙」は比喩として用いられているのに、直接それを使うと書かれているので間違い。Cは、「天然物質を用いない点で環境によいというのは筆者の考え方と逆なので間違い。Dは、「生態系に蓄積されることで能力が弱まるむということが本文には全く書かれていないことなので間違い。
問3
解答:解説
この答えは直前の一文の中にある。「環境ホルモン問題の難しさ」は、「他の要因と複合して起こる場合もあるので、明確な結果が出にくい」というところなので、正解はCである。@の「種類が非常に多いため」というのは指定された化学物質が七〇種類だというところからだろうが、その「区別をすることが難しい」とは本文に書かれていないので間違い。Aは、「化学物質の生産に制限が加わる」ことと「環境ホルモンの問題の難しさ」とは何の関係もないので間違い。Bは、「大量生産できる化学物質が使用禁止になった」ことは「換気用ホルモンの問題の難しさ」とは関係ないので間違い。D「思い慢性疾患を引き起こしてしまう」から難しいのではないので、間違い。
問4
解答:解説
その理由は、直後の一文から続く二つの文で書かれている。そして、それをまとめて筆者の考え方を述べたのが、次の段落のまとめのところに書かれている。「問題は、」に続く「人間や環境へ有害性がわかってから禁止するような後知恵の策ではなく、先手を打って安全性を確保するかどうかである」と。ここから考えれば、正解がAであることがわかる。@は、「その根拠として合理性を軽視しているから」が間違い。Bは、「予防措置として実施する上での細かな問題を多く残している」とは本文の中で書かれていない。
問5
解答:解説
最初の対応は素っ気ない態度だったが、加藤の登山経験を聞いているうちに彼に関心を持つようになっていったのだから、正解はBである。@の「傍線部の直後で、筆者がこのように考える理由を「環境は自ら立ち上がって提訴できないからだ」と述べた上で、最後の段落で筆者の考えを述べている。「人類の持続可能性が緊急の課題となりつつある二十一世紀」に「今必要なのは、「予防措置を」「新しい安全性の考え方として定着させてゆくこと」だというのである。そこから考えれば、正解はDであることがわかる。@は、「人命や人々の生活に多少の犠牲が出ても仕方がない」というのは筆者の考え方と全く違うので間違い。Aは、筆者の「『疑わしきは罰する』という環境哲学を是非広げたい」という考え方に背くので間違い。「科学技術開発や経済発展も重視した上で」というのが筆者の考え方に反するので間違い。Cは、「環境は人々に共有のものであるため誰も訴えを起こすことはできない」というのは本文に書かれていないことなので間違い。